インド仏跡の旅(2)
コルカタでカルチャーショック
関西空港を予定通り出発した飛行機は、シンガボール経由でインドのチェンナイへ着きました。予定ではデリーから入るつもりでした。しかしこの年はインドも異常気象で霧が発生するため、夜間の発着ができなくなったようです。しかしそのお陰(?)でインドの4大都市全部に行けることになりました。4大都市とはムンバイ、デリー、コルカタ、それにチェンナイです。今、あらためて地図で4大都市の場所を見て、移動距離の長さに驚かされます。これはしんどい旅になるはずです。
そのチェンナイも夜の11時半(日本時間では真夜中の2時半)にホテルに到着後、なんと出発は翌朝の4時45分!本当に寝に寄っただけという言葉がぴったりです。つかの間の休眠を取り、6時10分の飛行機で出発して、9時半にコルカタに到着しました。
私が10年前にはじめてインドに来たとき、コルカタでカルチャーショックを受けたことを思い出しました。その時インドのにおいとほこりっぽさと、なによりもマザー・テレサの「死を待つ人の家」を訪れ、驚きました。今回の旅行ではじめてインドに来られた方は9名です。それぞれどんな印象を持たれるか楽しみでもあり、不安でもありました。
実は私は参加しなかったのですが、以前のインド旅行で料理を作るところを見た方がいました。その作り方と調理場の汚さにショックを受けて、その日以来食事ができなくなったそうです。何とか日本から持参した食料で補ったそうですが、あまりにも日本がきれいなのか、インドがすごいのでしょうか。
そんなことを感じていたところに、また大変な状況を目にするはめになったのです。この日は午前中、ジャイナ寺院とカーリー寺院のどちらを先に訪れるか決めていました。すると現地のガイドの方が「今日はカーリー寺院はいけにえの日です」と言いました。すると天岸先生が「そちらに行こう」と一言。
カーリー寺院とはヒンドゥー教のカーリー女神をまつった聖地です。寺院の中は参詣者の方でごった返しています。その境内ではカーリー女神に捧げるため、午前6時から12時の間にヤギの首がはねられるのです。まず首をはねる前にヤギの体を水で清め、その時に人々はひざまずいて祈りを捧げるのです。その後に、両前足を後でくくり、2本の木の間に首をさし込んで斧で一気に切るのだそうです。
というのも私もさすがに見ることができなかったからです。しかし何と血を流しながら運ぶ首を目の当たりにしてしまいました。さすがにイヤなものを見た後の何ともいえない感じが残りました。それを一緒に見た方の顔つき、しかし私も同じ顔をしていたんでしょう。しかしよく考えてみれば、私の毎日の食事はそのような"いのち"をいただいているのです。そのことにも気づかず、何げなく食べています。自分がいただきながら、自らの手にかけることもないから、その痛みもわからなくなっているのでしょう。
しかしよく考えてみると、お米も野菜も果物も、私に食べてもらうために実をつけたのではありません。牛も豚も鶏も、私に食べてもらうために生まれてきたのではないのです。よく見れば私が生きていくためには、私以外のたくさんの"いのち"をいただいて、私は生きていくことができるのです。だから日本では昔から、合掌して「いただきます」という習慣があったのです。
しかしカルチャーショックは最初に受けていた方が良いのだそうです。インド旅行の一番悪いパターンは、最後にコルカタに来て日本に帰ることだそうです。そうすると悪い印象しか残らなくなると添乗員の方が言っていました。
その後、昼食です。食欲があるかどうか心配しましたが、インドヘ来てはじめてゆっくりと食べることのできる食事です。よく考えてみると、このメンバーで食事をするのは初めてです。ただ食前の言葉と含掌が、いつもよりていねいに思えたのは、団長の偏見でしょうか。
昼からは博物館です。今回のテーマである「仏教美術の旅」にふさわしいようにバールフトの遺跡の復元を見ながら、天岸先生の講義を予定しています。みんながお腹一杯で寝ないように…。しかし一番心配なのはこの私かも?