浄土真宗本願寺派 光寿山 正宣寺

1枚の白衣

今日も、院主の白衣を縫いながら、ふと思う。嫁いで来てから何枚の白衣を仕立ててきたことだろうか。テトロンウールの生地を手にしながら、今は何と便利な生地が作られたものだと感心せずにはいられません。

昔は、冬は袷物でしたから季節の変わり目には、ほどいて洗張りをし、寒くなるまでに縫い直しをします。また、夏物はたらいの中で洗濯板を使いごしごしと洗い、糊付けをして、乾けばアイロンをかけて仕上げたものです。

「もっと便利なものはないかしら、もっと楽な方法は…」と、この白衣のおかげで生活をさせて頂いていることも忘れて、楽を見つけようとしている私でした。

それが、いつの間にか科学の進歩と共に、ウールや化学繊維の生地が生産されるようになったのです。冬物でも単衣仕立てにして着用でき、丸洗いをしても型崩れの心配もなく、アイロンをかけてもしわになりにくい白衣が登場したのです。私はとてもうれしく思いました。

しかし、私は手数がかからなって楽になったと喜びましたが、院主の着心地の感想はと聞けば、静電気が起きてまとわりつき、歩きにくいと申します。また、化学繊維のためほこりを吸いやすく裾がすぐ黒く汚れ、洗濯をしてもきれいに落ちないのです。またしても、白衣のためにより以上のものを求めて私の心はゆれ動いていているのです。

1枚の白衣についてさえ、こんなに次々と不満が出てくるのを考えてみた時、人間の欲望にはどこまでも限りないことを気づかされるのです。

こんな不満だらけの愚かな私たちを救おうとして休みなくはたらきかけてくださるのが如来さまなのです。